もう、その口が開かれることはない。私の名を呼ぶ彼女の声が好ましかった。
その瞳が私を捉えることもない。私を見上げては細まる瞳はとても澄んで美しかった。
身体はとっくに氷のように冷たくなっている。私の手に重ねられるぬくもりが愛おしかった。
彼女が何故こうなることを望んだのか、巌勝にはわかるような、わからないような……不思議な感覚が残っていた。その意味を考える時間など、鬼――黒死牟として生きることとなった彼にとって恒久の如く残されている。それが巌勝にとって救いの一つであったが、彼がそれを自覚することはないのだろう。
「巌勝さま、どうか、私をあなたの一部にしてくださいな」
優しく、柔らかに笑んだ彼女の目からはあたたかな雫が流れていた。それは悲しみによるものではない。そう無意識に感じ取ったことは僥倖に違いない。
彼女の味はこれまでに喰らったどの人間よりも、甘く、香ばしく、そして……とても苦々しかった。
ああ、彼女も鬼になっていたならば――――。
